ふるさと・いわき、温かく豊かなれ!~Happy Birth 全てのいのちが愛しい 子どもと女性に助産師と支えんを ~

満月や新月あるいは潮が満ちるとき、予定・緊急の帝王切開、「おぎゃあー」「ほぎゃー」「ぅんぎゃーっ」…、静寂で張りつめる産室に個性ある産声が響き亘ります。どの赤ちゃんも全身の力を振り絞る真新しいいのちの息吹。

瞬間、「産んで良かった!」「生まれてよかったぁ。」と、そこにいる皆を希望に誘う歓喜に満ちたハーモニーが協奏します。1mmにも満たない受精卵から始まるいのち、命を懸けて生命を繋ぐかけがえのない私たち一人一人の誕生。「ようこそ、ようこそ。」と心をこめて迎える助産師の手のひらは赤ちゃんの頭や体を柔らかく包み、心から労う祝福の言葉とともに母の胸に抱く介添えをします。

助産師になりたいと覚心した30年前、そして再起した私の、女性や子どもや家族に寄り添うことを助産師としてこだわり続ける原風景がここにあります。助産師は、命を尊び、自然性を重んじ、愛智の精神で尽くすという倫理のもとに、

♡プレ妊娠期の男女の身体づくりや心磨きに目を向け、思春期から成人期のいのちと性の教育を行います。

♡妊娠中から健診や相談等を通して母子の健康をサポートし、親になる心持ちを養う準備教育や家族の成長を促すような支援をします。

♡自然で体に無理のかからない温かな出産、ゆったりとした時間が流れる中で、赤ちゃんの生まれる力・母の産む力母子を支える力が有効に発揮できるように伴走します。

♡母乳育児支援を行うと同時に、母乳育児の考え方である慈育をもとに、赤ちゃん全般の育児方法を伝授します。

♡助産所を開設し、自宅のように寛ぎながら心身が安らぎ出産や育児力をつけていけるよう産前産後のケアをします。

また、ご家庭への訪問、親子や仲間と楽しむサロン的なグループ交流支援や子育て講座を開催します。

♡女性が自分らしくあるために、妊娠葛藤についての相談、広く更年・老年期までの活き活き女性の健康増進を応援します。

 

昨年、いわき市で生まれた赤ちゃんは2,341人。日によって波があり平均して生まれる訳ではありませんが、毎日6~7人のいわきっ子が誕生していることになります。少子化はいわき市でも進んでおり、10年前に比べると一年間に生まれる赤ちゃんの数は500人程減少しています。産む場所も1病院5医院となりピーク時の半数以下、出産できる助産所はありません。本来、妊娠出産は病気ではないのですが、治療や救命など医療が必要なことも多くなってきています。このような状況であるからこそ、子ども子育て支援のスタートとして、人間性に基づく健康と生活の質を高める助産の場[助産師外来や院内助産、オープンシステム等]を、リスク管理や緊急対応できる医療センターに設置されていくことを望んでいます。そのためにも、まずは、胎児において絶対環境である親となる人達の妊娠前からの健康が大事です。あたりまえの日々の暮らしや普段の地域とのつながり・人間関係を良くしておくことで、産前産後のリスクを減らせることは少なくありません。妊娠期には、高血圧症候群や糖尿病・貧血等の合併症を予防する食生活、心や体の変調をケアする体操・休養・リフレッシュによりできるだけに快適で健康な生活をし、お産や子育ての準備を具体的にしていきます。妊娠出産・子育てのあり様はそれぞれですが、その根幹として生きることの自己決定や親になることの主体性はとても重要なこととなります。

また、東日本大震災も影響して、いわき市制の50年余りを振り返っても、子ども子育てを取り巻く環境も大きく変わりました。核家族が増え仕事中心の社会構造・デジタル社会となり、人間関係や地域交流は希薄し、子育て家庭においても孤立化が生じています。人間愛溢れる助産の場に併せて、産前産後ケア・赤ちゃんファミリーケアの充実が必要です。それから、子どもの成長における遊びの三間喪失については随分前から語られ、福島では更なる課題として続いています。昨年3月、ふるさと豊間復興協議会主催の“とよま”の新しいまちづくりワークショップに、2011震災年に生まれた子どもたち家族3組と参加しました。『豊間』にかけて、『豊かなさんま(三間)のまち』づくりをキャッチコピーとして提案させていただきました。子どもを育む環境として、①仲間:一緒に考えたり助けあったりできる友人・知人、②時間:人や自然と関わる時間、楽しみや成長する機会をもつ時間、③空間:健康な暮らしのできるあたたかい家庭、遊び場・学び場、地域コミュニティ…これら三間が豊かになるような、子どもを中心とした人の原点に立ち返る地域再生を呼びかけました。

豊かさとは、視覚的には測れない心の充足感や安定感・安穏感のような状態だと思っています。乳幼児を育てる母親の7割が、何かしらの心配や不安を抱えて過ごしている現状があります。子育て家庭の貧困率が高くなり、子ども虐待も増加の一途です。そうした現状の中、国が全世代対応型社会保障に転換し、「子ども子育て」も、社会保障に位置づけられました。来年10月には、いよいよ消費税10%、子ども子育てを含んだ地域包括支援が十分に機能し、全ての妊産婦や子どもがこぼれることなく当然のこととしてケアや支援を受けられるような生活のしくみが実現し、皆が等しく豊かになるいわきを想像しています。それは、専門性の高い需給的支えの充実を前提に地域資源が活かされ連携・協働する、赤ちゃんから高齢者まで一人一人が社会の生産者であるという、循環総成長社会「ふるさと・いわき」の姿です。

幸せからはじまるいわきっ子、妊娠出産・子育ては人生の大仕事です。その当事者となる女性はもちろん、いのちを授かった誰もがかかわることで、個人的にも社会的にもたくさんの優しさ溢れるエネルギーを投じられるべきことです。今私たちは、地域において助産師が行える支援を総べからずしていくことをモットーに、えん〔援=助け合い、縁=人とのつながり、円=人や地域の輪、得ん=自分らしさを得る〕を支える精神で、必要とされる様々な子ども子育て支援に繋げていけるように活動しています。温かな人間関係を通していのちが誕生し健やかに育まれること、子どもと女性の健康と権利が脅かされることがないようないわきであるように、地域の中で手を携える助産師・助産所の役割を果たしていきたいです。